「よし、地球儀を買ってこよう」
「はい、はあ?」
 しまった、口に出す内容ではなかったが、ちょっと彼女の不意を付けたのでまあ良しとしよう。不可抗力だから仕方ない仕方ない。――思い出していたのは昨日の“夢”だ、器用に組まれた手足に(若い者は長いね)、冷たい美しい目線。
 見下ろされた地球。
 いつか実際にあんな顔を見ることになるのかもしれない、させることを、止めることは出来ないのかもしれない。この世界は、なにがどうというわけではなくて、この歳になって(少なくとも時間の経過だけは完全無欠に年寄りだ)言い出すようなことでもないかもしれないけれど、醜いとは思うのだ。
 それはもう生きて動いているのだからしょうがない気すらする。


 だから地球儀を買おう。
 あの、未来を先を見る目で、いつか天秤に掛けられることを、怖れてしまわないように。そうなってしまうことを受け入れられるように。
 むしろ、そうなってしまうことをただ悲しいと思えるように。
 これから共に過ごす時間が、彼になにも残せないことなぞどうかありませんようにと。