#9「こころ」夏目漱石

先生に罪があるかどうかはほとんどタイミングの問題でしかなく。
むしろ恋の鞘当に勝って、親友でもある相手に自殺されてしまったのだ、というのは同情に値することではないのかと思うんですよ。それだけを聞けば。というか自然に。
しかしこの話は、どう考えてもそうではなく、Kの死はなにもお嬢さんのことを手に入れられなかったということではなく、告白すら出来なかったということでもなく(なんなら伝えなくても自分の感情を認めただけでも喜びとして抱えていくことが出来るような人だったんじゃないかって思うんですよ)、どこからどこまでも親友に「裏切られた」ということに他ならないとは思うのですが。
しかし先生はそれを隠したいのではなく、同情を受けたいのでもなく。
自分の罪をきちんとわかってくれる相手にしかそのことを話したくはなかったのだろうという気持ちだけはわかるんですよ。他のことはほとんど理解出来ない人ではありますが、ほとんど同情が出来ないのですがそこだけは。


でも、“私”が自分の手元から離れていく時に始めて告白する気になり。
自分は死を選ぶ、というのはねぇ、もう、どう考えても変わってない。


お嬢さんではなく、Kを喪いたくないから(じゃないと他のなにもかもが説明出来ないと思う)という理由で全く逆の行動をしてしまった昔となんにも変わってない。
なにも死ぬほどのことはないとは思ってはいたのでしょうが。
せめて自分の口から言えば良かったのにそうすることすら出来ず。
死を選ばせるくらい信じられていたのに、それに気付くようなこともなく。